敵対的生成ネットワーク
Contents
11. 敵対的生成ネットワーク¶
11.1. 基本的な事柄¶
敵対的生成ネットワークとは英語では generative adversarial network(GAN)と言う(主に)ニューラルネットワークを用いてデータを生成する方法です.入力データを変換することもできますが,やっていることは変更したデータを「生成」することであるため「生成する方法です」と書きました.GAN は現実世界の色々なところで既に応用されている技術です.とても重要な技術なのでここで紹介します.最も基本的な GAN を紹介した後に,その GAN の問題点を解決する GAN を紹介して,最後により便利な利用が可能な GAN を紹介します.
Note
GAN の構造には必ずしもニューラルネットワークが含まれる必要はありません.
Hint
計算終了までとても時間がかかるので全てのコードセルを最初に実行すると良いと思います.
11.1.1. 原理と活用方法¶
GAN の構成要素はふたつです.生成器(generator)と識別器(discriminator)です.識別器は以下で紹介する Wasserstein GAN(WGAN)を利用する場合は critic と名前を変えます.これの和訳は多分ありません.ここではクリティックと表記します.GAN はデータを生成(その派生として変換)する人工知能を作る方法です.最終的に得たいのは性能良く育った生成器です.識別器の役割は生成器をより良く育てることです.
GAN の学習は,より良い質の偽札を作ろうとする紙幣の偽造者とその偽札を見破る警察によるイタチごっこに例えられます.GAN においては偽造者が生成器で,警察が識別器です.GAN は以下のような構造をしています.生成器にはランダムに発生させられたノイズデータが入力されます.このランダムノイズを入力にして生成器は質の良い偽札を生成しようとします.これに対して,識別器には生成器から出力された偽札データ(偽物のデータ)または,本物の札(本物のデータ)のどちらかが入力されます.このどちらかのデータを入力にして識別器は入力データが本物か偽物かの値を出力します.例えば,生成したいデータが画像である場合,生成器から出力されるものは画像で,識別器から出力されるものは 0
または 1
です.
学習の最中に,生成器の性能と識別器の性能がどちらも良くなるようにそれらを育てます.よって生成器が良い感じに成長するとより質の高い偽札が生成されます.これに対して,識別器も偽札と本物の札を見分ける能力が高まるので,生成器は識別器に見破られないためにはさらに性能を向上させなければなりません.GAN の学習ではこのようなイタチごっこを行うことで生成器の性能を極限まで高めようとしています.
GAN の学習においては生成器と識別器のどちらもを成長させなければなりません.具体的には以下のようなふたつのパラメータ更新を別々に行います.
生成器を成長させる際には,ノイズを入力にして出力された偽物のデータを識別器の入力として識別器が真偽を識別した結果得られる出力に対して計算したコストから生成器のパラメータについて勾配を計算し,これを用いて生成器だけのパラメータの更新を行います.
識別器を成長させる際には,生成器から得られた偽物のデータか本物のデータを入力として識別器が真偽を識別した結果得られる出力に対して計算したコストから識別器のパラメータについて勾配を計算し,これを用いて識別器だけのパラメータ更新を行います.
生成器のコスト関数を \(P\),識別器のコスト関数を \(Q\) で表したとき,生成器を成長させるためのコストを計算するコスト関数は以下のように表されます.
\( \displaystyle P(\boldsymbol{\theta})=\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}\log(1-D(\boldsymbol{\phi},G(\boldsymbol{\theta},\boldsymbol{z}_i))) \)
ここで,生成器は \(G\),識別器は \(D\) で表しています.それぞれのニューラルネットワークのパラメータは \(\boldsymbol{\theta}\) と \(\boldsymbol{\phi}\) で,また,生成器と識別器へ入力されたデータの個数(サイズ)は \(N\) です.生成器への入力データである \(N\) 個のノイズの \(i\) 番目のデータを \(\boldsymbol{z}_i\) と表し,識別器への \(i\) 番目の入力データを \(\boldsymbol{x}_i\) と表記しています.識別器は入力されたデータが偽である場合 0
を出力し,真である場合 1
を出力するものとします.この場合,生成器の出力は全て真であると識別してほしいので,この \(P\) を小さくすれば目的に適うわけです.一方で,識別器のコスト関数は以下のように表されます.
\( \displaystyle Q(\boldsymbol{\phi})=-\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}(\log D(\boldsymbol{\phi},\boldsymbol{x}_i)+\log(1-D(\boldsymbol{\phi},G(\boldsymbol{\theta},\boldsymbol{z}_i)))) \)
本物のデータに対しては 1
を出力してほしいし,偽物のデータに対しては 0
を出力してほしいので,この \(Q\) を小さくすれば良いのですね.
ここでは,このように生成器と識別器のコスト関数を分けて書きましたが,元の論文には以下のように書かれています.
\( \displaystyle \min_G \max_D V(D,G) = \min_G \max_D \mathbb E_{x \sim p_{data}(x)}[\log{D(x)}]+ \mathbb E_{z \sim p_z(z)}[\log{(1-D(G(z)))}] \)
Note
元論文の式,これ厳密でしょうか?これだけ見せられたら意味わからないです.
11.1.2. 色々な GAN¶
GAN は色々なところで使われています.元々の GAN は 2014 年に開発されたのですが,その後もその改良は様々な研究者によって行われてきました.GAN の特有の問題を解決するための研究や GAN の適用先を画像解析分野や文字列解析分野にした研究や GAN に新たな機能を加える研究等です.数多くの GAN が開発されており,それらの GAN をまとめて GAN Zoo という場合があります.GAN Zoo は以下のウェブサイトにまとめられています.
https://github.com/hindupuravinash/the-gan-zoo
全ての GAN について説明することはできないため,ここでは,最も基本的な GAN を紹介した後に,GAN の特有の問題であるモード崩壊を抑制するために開発された方法である WGAN-gp と GAN の入力に何らかの条件を加えることで,その条件にあった出力をさせることができるようになる Conditional GAN(CGAN)の紹介を行います.
11.2. 基本的な GAN¶
この節では基本的な GAN の実装方法を紹介します.また,GAN に関してどのような問題が存在しているのかについてまとめます.
11.2.1. GAN の学習の手順¶
GAN の学習は以下のような手順で行われます.
ノイズを入力にして生成器が偽物のデータを生成する.
偽物のデータを識別器に入力し,識別器からの出力値を得る.
識別器の出力値を用いて計算したコスト関数 \(P\) の値に基づいて生成器のパラメータを更新.
偽物のデータと本物のデータを識別器に入力し,識別器からの出力値を得る.
識別器の出力値を用いて計算したコスト関数 \(Q\) の値に基づいて識別器のパラメータを更新.
識別器の評価指標が収束した場合,学習を終了.それ以外の場合,最初に戻る.
実際の学習の際には適した最適化法を選ぶとか,生成器と識別器の学習回数を変えるとか,真とラベルを 1 ではなくて 0.8 から 1.2 の範囲に含まれる値にするとかのテクニックが存在しますが,そのようなものは以下の実装の部分で紹介します.
11.2.2. GAN の実装¶
最も基本的な GAN を実装します.このプログラムでは MNIST の学習データセットを読み込んで,類似した数字画像を出力する人工知能を構築します.以下のように書きます.
#!/usr/bin/env python3
import tensorflow as tf
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
tf.random.set_seed(0)
np.random.seed(0)
def main():
# ハイパーパラメータの設定
MiniBatchSize = 300
NoiseSize = 100 # GANはランダムなノイズベクトルから何かを生成する方法なので,そのノイズベクトルのサイズを設定する.
MaxEpoch = 500
# データセットの読み込み
(learnX, learnT), (_, _) = tf.keras.datasets.mnist.load_data()
learnX = np.asarray(learnX.reshape([60000, 784]), dtype="float32")
learnX = (learnX - 127.5) / 127.5
# 生成器と識別器の構築
generator = Generator() # 下のクラスを参照.
discriminator = Discriminator() # 下のクラスを参照.
# コスト関数と正確度を計算する関数の生成
costComputer = tf.keras.losses.SparseCategoricalCrossentropy()
accuracyComputer = tf.keras.metrics.SparseCategoricalAccuracy()
# オプティマイザは生成器と識別器で別々のものを利用
optimizerGenerator = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001)
optimizerDiscriminator = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.00004)
# 生成器を成長させるためのコストを計算する関数
def generatorCostFunction(discriminatorOutputFromGenerated):
cost = costComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated) # 生成器のコストの引数は生成器の出力を識別器に入れた結果.生成器としては全部正解を出しているはずなので教師はすべて1となるはず.そのように学習すべき.
accuracy = accuracyComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated)
return cost, accuracy
# 識別器を成長させるためのコストを計算する関数
def discriminatorCostFunction(discriminatorOutputFromReal,discriminatorOutputFromGenerated): # 識別器のコストの引数は本物の情報を識別器に入れた結果と生成器の出力を識別器に入れた結果.
realCost = costComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromReal.shape[0]), discriminatorOutputFromReal) # 本物の情報の場合はすべて正例(1)と判断すべき.これが例のコスト関数の左の項に相当.
fakeCost = costComputer(tf.zeros(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated) # 偽物の情報の場合はすべて負例(0)と判断すべき.これが例のコスト関数の右の項に相当.
cost = realCost + fakeCost
realAccuracy = accuracyComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromReal.shape[0]), discriminatorOutputFromReal)
fakeAccuracy = accuracyComputer(tf.zeros(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated)
accuracy=(realAccuracy + fakeAccuracy) / 2
return cost, accuracy
@tf.function()
def run(generator, discriminator, noiseVector, realInputVector):
with tf.GradientTape() as generatorTape, tf.GradientTape() as discriminatorTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector) # 生成器によるデータの生成.
discriminatorOutputFromGenerated = discriminator(generatedInputVector) # その生成データを識別器に入れる.
discriminatorOutputFromReal = discriminator(realInputVector) # 本物データを識別器に入れる.
# 識別器の成長
discriminatorCost, discriminatorAccuracy = discriminatorCostFunction(discriminatorOutputFromReal, discriminatorOutputFromGenerated)
gradientDiscriminator = discriminatorTape.gradient(discriminatorCost, discriminator.trainable_variables) # 識別器のパラメータだけで勾配を計算.つまり生成器のパラメータは行わない.
optimizerDiscriminator.apply_gradients(zip(gradientDiscriminator, discriminator.trainable_variables))
# 生成器の成長
generatorCost, generatorAccuracy = generatorCostFunction(discriminatorOutputFromGenerated)
gradientGenerator = generatorTape.gradient(generatorCost,generator.trainable_variables) # 生成器のパラメータで勾配を計算.
optimizerGenerator.apply_gradients(zip(gradientGenerator,generator.trainable_variables))
return discriminatorCost, discriminatorAccuracy, generatorCost, generatorAccuracy
# ミニバッチセットの生成
learnX = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnX) # このような方法を使うと簡単にミニバッチを実装することが可能.
learnT = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnT)
learnA = tf.data.Dataset.zip((learnX, learnT)).shuffle(60000).batch(MiniBatchSize) # 今回はインプットデータしか使わないけど後にターゲットデータを使う場合があるため.
miniBatchNumber = len(list(learnA.as_numpy_iterator()))
# 学習ループ
for epoch in range(1,MaxEpoch+1):
discriminatorCost, discriminatorAccuracy, generatorCost, generatorAccuracy = 0, 0, 0, 0
for learnx, _ in learnA:
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
discriminatorCostPiece, discriminatorAccuracyPiece, generatorCostPiece, generatorAccuracyPiece = run(generator, discriminator, noiseVector, learnx)
discriminatorCost += discriminatorCostPiece / miniBatchNumber
discriminatorAccuracy += discriminatorAccuracyPiece / miniBatchNumber
generatorCost += generatorCostPiece / miniBatchNumber
generatorAccuracy += generatorAccuracyPiece / miniBatchNumber
# 疑似的なテスト
if epoch%10 == 0:
print("Epoch {:10d} D-cost {:6.4f} D-acc {:6.4f} G-cost {:6.4f} G-acc {:6.4f}".format(epoch,float(discriminatorCost),float(discriminatorAccuracy),float(generatorCost),float(generatorAccuracy)))
validationNoiseVector = generateNoise(1, NoiseSize)
validationOutput = generator(validationNoiseVector)
validationOutput = np.asarray(validationOutput).reshape([1, 28, 28])
plt.imshow(validationOutput[0], cmap = "gray")
plt.pause(1)
# 入力されたデータを0か1に分類するネットワーク
class Discriminator(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Discriminator,self).__init__()
self.d1 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d2 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d3 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d4 = tf.keras.layers.Dense(units=2, activation="softmax")
self.a = tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.d = tf.keras.layers.Dropout(0.5)
def call(self,x):
y = self.d1(x)
y = self.a(y)
y = self.d(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.d(y)
y = self.d3(y)
y = self.a(y)
y = self.d(y)
y = self.d4(y)
return y
# 入力されたベクトルから別のベクトルを生成するネットワーク
class Generator(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Generator,self).__init__()
self.d1=tf.keras.layers.Dense(units=256)
self.d2=tf.keras.layers.Dense(units=256)
self.d3=tf.keras.layers.Dense(units=784)
self.a=tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.b1=tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.b2=tf.keras.layers.BatchNormalization()
def call(self,x):
y = self.d1(x)
y = self.a(y)
y = self.b1(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.b2(y)
y = self.d3(y)
y = tf.keras.activations.tanh(y)
return y
def generateNoise(miniBatchSize, randomNoiseSize):
return np.random.uniform(-1, 1, size=(miniBatchSize,randomNoiseSize)).astype("float32")
if __name__ == "__main__":
main()
実行した結果,エポックを経るに従って数字が含まれたような画像が生成されたはずです.GAN の学習の過程では,生成器と識別器の性能は拮抗するはずなので,生成器の正確度と識別器の正確度はどちらも 0.5 に収束すると良いと考えられます.
以下の部分ではハイパーパラメータを設定します.ミニバッチに含まれるデータのサイズは 300 個にしました.GAN はランダムに発生させたノイズから何らかのデータを生成するものですが,このノイズのサイズ NoiseSize
を 100 に設定しました.変更しても良いです.学習は今回の場合,500 回行うことにしました.実際はコストの値を観察しながら過学習が起こっていないエポックで学習を止めると良いと思います.
# ハイパーパラメータの設定
MiniBatchSize = 300
NoiseSize = 100 # GANはランダムなノイズベクトルから何かを生成する方法なので,そのノイズベクトルのサイズを設定する.
MaxEpoch = 500
データセットの読み込みの部分ですが,TensorFlow が提要してくれる MNIST は 0 から 255 の値からなるデータなので,これを -1 から 1 の範囲からなるデータに変換しています.
# データセットの読み込み
(learnX, learnT), (_, _) = tf.keras.datasets.mnist.load_data()
learnX = np.asarray(learnX.reshape([60000, 784]), dtype="float32")
learnX = (learnX - 127.5) / 127.5
以下の部分では生成器と識別器を生成しています.
# 生成器と識別器の構築
generator = Generator() # 下のクラスを参照.
discriminator = Discriminator() # 下のクラスを参照.
生成器を生成するためのクラスは以下に示す通りです.入力されたノイズデータに対して 3 層の全結合層の計算がされます.各層の活性化関数は Leaky ReLU です.また,バッチノーマライゼーションも利用しています.最終層のユニットサイズは 784 ですが,これは MNIST 画像のピクセル数に相当します.
# 入力されたベクトルから別のベクトルを生成するネットワーク
class Generator(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Generator,self).__init__()
self.d1=tf.keras.layers.Dense(units=256)
self.d2=tf.keras.layers.Dense(units=256)
self.d3=tf.keras.layers.Dense(units=784)
self.a=tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.b1=tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.b2=tf.keras.layers.BatchNormalization()
def call(self,x):
y = self.d1(x)
y = self.a(y)
y = self.b1(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.b2(y)
y = self.d3(y)
y = tf.keras.activations.tanh(y)
return y
識別器を生成するためのクラスは以下に示す通りです.今回の場合,識別器の入力データは 784 ピクセルの画像データです.これを入力にして,このデータが真か偽かを識別します.よって,最終層のユニットサイズは 2 です.
# 入力されたデータを0か1に分類するネットワーク
class Discriminator(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Discriminator,self).__init__()
self.d1 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d2 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d3 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d4 = tf.keras.layers.Dense(units=2, activation="softmax")
self.a = tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.d = tf.keras.layers.Dropout(0.5)
def call(self,x):
y = self.d1(x)
y = self.a(y)
y = self.d(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.d(y)
y = self.d3(y)
y = self.a(y)
y = self.d(y)
y = self.d4(y)
return y
最適化法は生成器と識別器で異なるものを利用した方が良い場合があります.経験的に識別器の方が性能が出やすいので,ここでは学習率を少し小さく設定しています.
# オプティマイザは生成器と識別器で別々のものを利用
optimizerGenerator = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001)
optimizerDiscriminator = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.00004)
以下の部分は生成器を成長させるためのコストを計算するコスト関数を含む記述です.これの引数は discriminatorOutputFromGenerated
と書いていますが,これは生成器がノイズから生成したデータを識別器に入力したときに識別器が出力した値です.つまり,0
または 1
です.cost
からはじまる行では tf.ones
で 1
という値からなるデータをミニバッチのサイズ分生成しています.それを discriminatorOutputFromGenerated
と比較しています.この差を小さくしたいわけなので,つまり,生成器から出力されたデータはすべて真であると学習させるということを意味しています.
# 生成器を成長させるためのコストを計算する関数
def generatorCostFunction(discriminatorOutputFromGenerated):
cost = costComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated) # 生成器のコストの引数は生成器の出力を識別器に入れた結果.生成器としては全部正解を出しているはずなので教師はすべて1となるはず.そのように学習すべき.
accuracy = accuracyComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated)
return cost, accuracy
以下は識別器を成長させるためのコストを計算するコスト関数を含む記述です.識別器の引数は discriminatorOutputFromReal
と discriminatorOutputFromGenerated
で,それぞれ,本物のデータを入力されたときの識別器の出力値と偽物のデータを入力されたときの識別器の出力値です.上の生成器の場合と同じ書き方をしているので確認してほしいのですが,識別器は本物のデータが入力されたら本物と識別するように,また,偽物のデータが入力されたら偽物と識別するように成長させられます.
# 識別器を成長させるためのコストを計算する関数
def discriminatorCostFunction(discriminatorOutputFromReal,discriminatorOutputFromGenerated): # 識別器のコストの引数は本物の情報を識別器に入れた結果と生成器の出力を識別器に入れた結果.
realCost = costComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromReal.shape[0]), discriminatorOutputFromReal) # 本物の情報の場合はすべて正例(1)と判断すべき.これが例のコスト関数の左の項に相当.
fakeCost = costComputer(tf.zeros(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated) # 偽物の情報の場合はすべて負例(0)と判断すべき.これが例のコスト関数の右の項に相当.
cost = realCost + fakeCost
realAccuracy = accuracyComputer(tf.ones(discriminatorOutputFromReal.shape[0]), discriminatorOutputFromReal)
fakeAccuracy = accuracyComputer(tf.zeros(discriminatorOutputFromGenerated.shape[0]), discriminatorOutputFromGenerated)
accuracy=(realAccuracy + fakeAccuracy) / 2
return cost, accuracy
以下は 1 回あたりの学習のための記述です.tf.GradientTape()
を 2 個利用している点がちょっと珍しい書き方かもしれません.generatedInputVector
からはじまる行はノイズデータからデータを生成する記述です.そしてそのデータを識別器に入力して得られる値が次の行の discriminatorOutputFromGenerated
で,また,本物のデータを識別器に入力して得られる値が次の行の discriminatorOutputFromReal
です.
@tf.function()
def run(generator, discriminator, noiseVector, realInputVector):
with tf.GradientTape() as generatorTape, tf.GradientTape() as discriminatorTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector) # 生成器によるデータの生成.
discriminatorOutputFromGenerated = discriminator(generatedInputVector) # その生成データを識別器に入れる.
discriminatorOutputFromReal = discriminator(realInputVector) # 本物データを識別器に入れる.
# 識別器の成長
discriminatorCost, discriminatorAccuracy = discriminatorCostFunction(discriminatorOutputFromReal, discriminatorOutputFromGenerated)
gradientDiscriminator = discriminatorTape.gradient(discriminatorCost, discriminator.trainable_variables) # 識別器のパラメータだけで勾配を計算.つまり生成器のパラメータは行わない.
optimizerDiscriminator.apply_gradients(zip(gradientDiscriminator, discriminator.trainable_variables))
# 生成器の成長
generatorCost, generatorAccuracy = generatorCostFunction(discriminatorOutputFromGenerated)
gradientGenerator = generatorTape.gradient(generatorCost,generator.trainable_variables) # 生成器のパラメータで勾配を計算.
optimizerGenerator.apply_gradients(zip(gradientGenerator,generator.trainable_variables))
return discriminatorCost, discriminatorAccuracy, generatorCost, generatorAccuracy
以下の記述はミニバッチセットを生成するために TensorFlow が用意してくれたユーティリティを使うためのものです.
# ミニバッチセットの生成
learnX = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnX) # このような方法を使うと簡単にミニバッチを実装することが可能.
learnT = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnT)
learnA = tf.data.Dataset.zip((learnX, learnT)).shuffle(60000).batch(MiniBatchSize) # 今回はインプットデータしか使わないけど後にターゲットデータを使う場合があるため.
miniBatchNumber = len(list(learnA.as_numpy_iterator()))
Note
便利ですねこれ.
学習ループに関しては特に説明しませんが,ループ内で用いられている generateNoise
という名の関数はランダムなノイズを発生させるためのものです.
def generateNoise(miniBatchSize, randomNoiseSize):
return np.random.uniform(-1, 1, size=(miniBatchSize,randomNoiseSize)).astype("float32")
11.2.3. GAN の問題点¶
上のプログラムを実行した際には観測できなかったかもしれませんが,GAN の学習を行った結果得られる人工知能(学習済み生成器)が同じような出力しかしなくなる現象があります.MNIST を例にすると 1 が含まれる画像しか生成しなくなるような現象です.この現象のことをモード崩壊と言います.英語では mode collpase と書きます.データを生成するために利用する GAN なので,利用目的にも依りますが,この現象は普通好ましくないものであると考えられます.これを解決しようとした WGAN-gp を以下で紹介します.
また,生成器の学習がとても進みにくいという問題もあります.最適化法を変更するとか,ハイパーパラメータの設定を慎重に行うとか,学習データサイズを増やすとかの色々な対策をとる必要があります.GAN の学習をうまく進めるために様々なテクニックがインターネット上でまとめられていますが,それらを自分の問題に合わせて取捨選択すると良いと思います.
その他の GAN の問題点としては,上のプログラムを実行した結果から確認できたと思いますが,生成したいデータの条件を指定できないことです.例えば,MNIST のような数字が含まれた画像の中でも 2 が含まれる画像のみを生成したい場合,上のプログラムではかなり蕪雑な方法を使わないとできません.これを解決しようとした方法を以下で紹介します.
11.3. WGAN-gp の実装¶
基本的な GAN の改良版である WGAN-gp の実装方法を紹介します.
11.3.1. WGAN-gp とは¶
WGAN-gp は基本的な GAN で起こりやすく問題となるモード崩壊を解決しようとした方法です.GAN では何らかの分布に従ってデータが生成していると考えますが,この分布と本物のデータが生成される分布を近づけようとします.基本的な GAN の学習で行っている行為はそのふたつの分布間のヤンセン・シャノンダイバージェンスと言う値を小さくしようとすることに相当します.これに対して WGAN-gp ではより収束性能に優れたワッサースタイン距離を小さくしようとします.詳しくは元の論文を参照してください.
WGAN-gp の学習における生成器のコスト関数は以下の式で表されます.
\( \displaystyle P(\boldsymbol{\theta})=-\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}D(\boldsymbol{\phi},G(\boldsymbol{\theta},\boldsymbol{z}_i)) \)
また,WGAN-gp において識別器は真か偽の二値を識別して出力するものではなくて,実数を出力するものへと変わるため,これを識別器と呼ばず,クリティックと呼ぶ場合があるため,ここでもそのように呼びます.クリティックのコスト関数は以下の式で表されます.
\( \displaystyle Q(\boldsymbol{\phi})=\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}(D(\boldsymbol{\phi},G(\boldsymbol{\theta},\boldsymbol{z}_i))-D(\boldsymbol{\phi},\boldsymbol{x}_i)+\lambda(\|\boldsymbol{g}(\boldsymbol{\phi},\boldsymbol{\hat{x}}_i)\|_2-1)^2) \)
ここでも,生成器を \(G\),クリティックを \(D\) で表します.それぞれのニューラルネットワークのパラメータは \(\boldsymbol{\theta}\) と \(\boldsymbol{\phi}\) で,また,生成器とクリティックへ入力されたデータの個数を \(N\) とします.生成器への入力データである \(N\) 個のノイズの \(i\) 番目のデータを \(\boldsymbol{z}_i\) と表し,クリティックへの \(i\) 番目の入力データを \(\boldsymbol{x}_i\) と表します.最後に,生成器のコスト関数を \(P\),クリティックのコスト関数を \(Q\) で表します.このクリティックのコスト関数にあるラムダを含む項は勾配ペナルティです.英語では gradient penalty(gp)です.このラムダはハイパーパラメータであり元の論文では10に設定されています.また,\(\boldsymbol{g}\) は勾配ベクトル場であり,以下のように定義されます.
\( \displaystyle \boldsymbol{g}(\boldsymbol{\phi},\boldsymbol{x})=\frac{\partial D(\boldsymbol{\phi},\boldsymbol{x})}{\partial\boldsymbol{x}} \)
また,\(\boldsymbol{\hat{x}}_i\) は以下の式で計算される値です.
\( \boldsymbol{\hat{x}}_i=\epsilon\boldsymbol{x}_i+(1-\epsilon)G(\boldsymbol{\theta},\boldsymbol{z}_i) \)
式中で用いられている \(\epsilon\) は,最小値が 0 で最大値が 1 の一様分布からサンプリングしたランダムな値です.
11.3.2. WGAN-gp の実装¶
WGAN-gp を実装します.このプログラムでも MNIST の学習データセットを読み込んで,類似した数字画像を出力する人工知能を構築します.以下のように書きます.
#!/usr/bin/env python3
import tensorflow as tf
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
tf.random.set_seed(0)
np.random.seed(0)
def main():
# ハイパーパラメータの設定
MiniBatchSize = 300
NoiseSize = 100 # GANはランダムなノイズベクトルから何かを生成する方法なので,そのノイズベクトルのサイズを設定する.
MaxEpoch = 300
CriticLearningNumber = 5
GradientPenaltyCoefficient = 10
# データセットの読み込み
(learnX, learnT), (_, _) = tf.keras.datasets.mnist.load_data()
learnX = np.asarray(learnX.reshape([60000, 784]), dtype="float32")
learnX = (learnX - 127.5) / 127.5
# 生成器と識別器の構築
generator = Generator() # 下のクラスを参照.
critic = Critic() # 下のクラスを参照.
# オプティマイザは生成器と識別器で同じで良い.が,ハイパーパラメータを変えたくなるかもしれないからふたつ用意.
optimizerGenerator = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001,beta_1=0,beta_2=0.9)
optimizerCritic = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001,beta_1=0,beta_2=0.9)
@tf.function()
def runCritic(generator, critic, noiseVector, realInputVector):
with tf.GradientTape() as criticTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector) # その生成データを識別器に入れる.
criticOutputFromReal = critic(realInputVector) # 本物データを識別器に入れる.
epsilon = tf.random.uniform(generatedInputVector.shape, minval=0, maxval=1)
intermediateVector = generatedInputVector + epsilon * (realInputVector - generatedInputVector)
# 勾配ペナルティ
with tf.GradientTape() as gradientPenaltyTape:
gradientPenaltyTape.watch(intermediateVector)
criticOutputFromIntermediate = critic(intermediateVector)
gradientVector = gradientPenaltyTape.gradient(criticOutputFromIntermediate, intermediateVector)
gradientNorm = tf.norm(gradientVector, ord="euclidean", axis=1) # gradientNorm = tf.sqrt(tf.reduce_sum(tf.square(gradientVector), axis=1)) と書いても良い.
gradientPenalty = GradientPenaltyCoefficient * (gradientNorm - 1)**2
# 識別器の成長
criticCost = tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated - criticOutputFromReal + gradientPenalty) # 識別器を成長させるためのコストを計算.WGANの元論文の式そのまま.
gradientCritic = criticTape.gradient(criticCost, critic.trainable_variables) # 識別器のパラメータだけで勾配を計算.つまり生成器のパラメータは行わない.
optimizerCritic.apply_gradients(zip(gradientCritic, critic.trainable_variables))
return criticCost
@tf.function()
def runGenerator(generator, critic, noiseVector):
with tf.GradientTape() as generatorTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector) # その生成データを識別器に入れる.
# 生成器の成長
generatorCost = -tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated) # 生成器を成長させるためのコストを計算.
gradientGenerator = generatorTape.gradient(generatorCost,generator.trainable_variables) # 生成器のパラメータで勾配を計算.
optimizerGenerator.apply_gradients(zip(gradientGenerator,generator.trainable_variables))
return generatorCost
# ミニバッチセットの生成
learnX = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnX) # このような方法を使うと簡単にミニバッチを実装することが可能.
learnT = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnT)
learnA = tf.data.Dataset.zip((learnX, learnT)).shuffle(60000).batch(MiniBatchSize) # 今回はインプットデータしか使わないけど後にターゲットデータを使う場合があるため.
miniBatchNumber = len(list(learnA.as_numpy_iterator()))
# 学習ループ
for epoch in range(1,MaxEpoch+1):
criticCost, generatorCost = 0, 0
for learnx, _ in learnA:
# WGAN-gpでは識別器1回に対して生成器を複数回学習させるのでそのためのループ.
for _ in range(CriticLearningNumber):
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
criticCostPiece = runCritic(generator, critic, noiseVector, learnx)
criticCost += criticCostPiece / (CriticLearningNumber * miniBatchNumber)
# WGAN-gpでは識別器1回に対して生成器を複数回学習させるのでそのためのループ.
for _ in range(1):
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
generatorCostPiece = runGenerator(generator, critic, noiseVector)
generatorCost += generatorCostPiece / miniBatchNumber
# 疑似的なテスト
if epoch%10 == 0:
print("Epoch {:10d} D-cost {:6.4f} G-cost {:6.4f}".format(epoch,float(criticCost),float(generatorCost)))
validationNoiseVector = generateNoise(1, NoiseSize)
validationOutput = generator(validationNoiseVector)
validationOutput = np.asarray(validationOutput).reshape([1, 28, 28])
plt.imshow(validationOutput[0], cmap = "gray")
plt.pause(1)
# 入力されたデータを評価するネットワーク
class Critic(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Critic,self).__init__()
self.d1 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d2 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d3 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d4 = tf.keras.layers.Dense(units=1)
self.a = tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.dropout = tf.keras.layers.Dropout(0.5)
def call(self,x):
y = self.d1(x)
y = self.a(y)
y = self.dropout(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.dropout(y)
y = self.d3(y)
y = self.a(y)
y = self.dropout(y)
y = self.d4(y)
return y
# 入力されたベクトルから別のベクトルを生成するネットワーク
class Generator(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Generator,self).__init__()
self.d1=tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d2=tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d3=tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d4=tf.keras.layers.Dense(units=784)
self.a=tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.b1=tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.b2=tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.b3=tf.keras.layers.BatchNormalization()
def call(self,x):
y = self.d1(x)
y = self.a(y)
y = self.b1(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.b2(y)
y = self.d3(y)
y = self.a(y)
y = self.b3(y)
y = self.d4(y)
y = tf.keras.activations.tanh(y)
return y
def generateNoise(miniBatchSize, randomNoiseSize):
return np.random.uniform(-1, 1, size=(miniBatchSize,randomNoiseSize)).astype("float32")
if __name__ == "__main__":
main()
このプログラムを実行すると,上の基本的な GAN を用いたときよりも奇麗な画像が出力されたのではないかと思います.また,生成器が綺麗な画像を出力しだす実時間も基本的な GAN を用いた場合よりも早かったのではないでしょうか.
Note
WGAN-gp が優れた方法であることがわかりますね.
以下の部分はハイパーパラメータの設定部分ですが,基本的な GAN と比べて,CriticLearningNumber
が新たに加わっています.これは,生成器のパラメータ更新 1 回に対してクリティックのパラメータ更新をさせる回数です.基本的な GAN の学習をうまく進めるために生成器の学習回数を増やすことがあるのですが,WGAN-gp ではクリティックの方の学習回数を増やします.また,GradientPenaltyCoefficient
は勾配ペナルティに欠ける係数です.これはハイパーパラメータなのですが,元の論文では 10 に設定されていたため,ここでも 10 にしました.
# ハイパーパラメータの設定
MiniBatchSize = 300
NoiseSize = 100 # GANはランダムなノイズベクトルから何かを生成する方法なので,そのノイズベクトルのサイズを設定する.
MaxEpoch = 300
CriticLearningNumber = 5
GradientPenaltyCoefficient = 10
WGAN-gp では生成器とクリティックの学習回数を変えるため,パラメータ更新のための関数は別々に用意する必要があります.以下はクリティックのパラメータ更新を行うための記述です.
@tf.function()
def runCritic(generator, critic, noiseVector, realInputVector):
with tf.GradientTape() as criticTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector) # その生成データを識別器に入れる.
criticOutputFromReal = critic(realInputVector) # 本物データを識別器に入れる.
epsilon = tf.random.uniform(generatedInputVector.shape, minval=0, maxval=1)
intermediateVector = generatedInputVector + epsilon * (realInputVector - generatedInputVector)
# 勾配ペナルティ
with tf.GradientTape() as gradientPenaltyTape:
gradientPenaltyTape.watch(intermediateVector)
criticOutputFromIntermediate = critic(intermediateVector)
gradientVector = gradientPenaltyTape.gradient(criticOutputFromIntermediate, intermediateVector)
gradientNorm = tf.norm(gradientVector, ord="euclidean", axis=1) # gradientNorm = tf.sqrt(tf.reduce_sum(tf.square(gradientVector), axis=1)) と書いても良い.
gradientPenalty = GradientPenaltyCoefficient * (gradientNorm - 1)**2
# 識別器の成長
criticCost = tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated - criticOutputFromReal + gradientPenalty) # 識別器を成長させるためのコストを計算.WGANの元論文の式そのまま.
gradientCritic = criticTape.gradient(criticCost, critic.trainable_variables) # 識別器のパラメータだけで勾配を計算.つまり生成器のパラメータは行わない.
optimizerCritic.apply_gradients(zip(gradientCritic, critic.trainable_variables))
return criticCost
上で紹介したクリティックのコストを計算するための記述が含まれています.上の式の \(\epsilon\) は epsilon
からはじまる行で生成されます.単に一様分布からのサンプリングです.intermediateVector
は \(\hat{x}\) です.さらに,クリティックの出力に対してこの \(\hat{x}\) に対する勾配を計算する必要がありますが,それを行っているのが gradientVector
の行の記述です.引き続き gradientPenalty
を行っています.その下の criticCost
からはじまる行はクリティックのコストを求める上の式そのものです.
以下の記述は生成器のコストを求めるためのものです.generatorCost
からはじまる行が生成器を求めるための上の式そのものなので理解しやすいのではないでしょうか.
@tf.function()
def runGenerator(generator, critic, noiseVector):
with tf.GradientTape() as generatorTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector) # その生成データを識別器に入れる.
# 生成器の成長
generatorCost = -tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated) # 生成器を成長させるためのコストを計算.
gradientGenerator = generatorTape.gradient(generatorCost,generator.trainable_variables) # 生成器のパラメータで勾配を計算.
optimizerGenerator.apply_gradients(zip(gradientGenerator,generator.trainable_variables))
return generatorCost
学習ループの部分は基本的な GAN のものとほぼ同じなのですが,識別器のパラメータ更新の回数を生成器のそれと変えるため,for _ in range(CriticLearningNumber):
の部分でハイパーパラメータとして設定した分だけパラメータ更新のループを設定しています.
# 学習ループ
for epoch in range(1,MaxEpoch+1):
criticCost, generatorCost = 0, 0
for learnx, _ in learnA:
# WGAN-gpでは識別器1回に対して生成器を複数回学習させるのでそのためのループ.
for _ in range(CriticLearningNumber):
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
criticCostPiece = runCritic(generator, critic, noiseVector, learnx)
criticCost += criticCostPiece / (CriticLearningNumber * miniBatchNumber)
# WGAN-gpでは識別器1回に対して生成器を複数回学習させるのでそのためのループ.
for _ in range(1):
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
generatorCostPiece = runGenerator(generator, critic, noiseVector)
generatorCost += generatorCostPiece / miniBatchNumber
# 疑似的なテスト
if epoch%10 == 0:
print("Epoch {:10d} D-cost {:6.4f} G-cost {:6.4f}".format(epoch,float(criticCost),float(generatorCost)))
validationNoiseVector = generateNoise(1, NoiseSize)
validationOutput = generator(validationNoiseVector)
validationOutput = np.asarray(validationOutput).reshape([1, 28, 28])
plt.imshow(validationOutput[0], cmap = "gray")
plt.pause(1)
11.4. CGAN の実装¶
この節では条件を指定することで条件に合ったデータを生成することができる GAN の改良版である CGAN の実装方法を紹介します.
11.4.1. CGAN とは¶
GAN のプログラムで確認したように,0から9までの手書き数字の文字が含まれた画像を入力データとして学習させた学習済みのGANの生成器は,ランダムに生成されたノイズを入力データとして,ランダムに0から9までの数字が描かれた画像を生成することができます.生成される数字はノイズに応じたランダムなものであり,特定の数字が描かれた画像を意図的に出力させることはできません.これに対して,CGAN は生成器への入力データとしてノイズに加えて,何らかの条件を入力情報として与えることができる方法です.この条件を例えば0から9までの数字として設定して学習すれば,学習済みの生成器に特定の数字を条件として入力することで特定の数字を含む画像だけを生成させることができます.CGAN の全体像は以下の図に示す通りです.ほぼ GAN と同様なのですが,条件データを生成器と識別器に入れることができます.
基本的な GAN は新たなデータを生成することが可能でしたが,CGANを利用すれば,データの変換を行うことができます.例えば,人の顔画像を出力すように学習させた生成器に「笑う」,「怒る」,「悲しむ」のような条件を同時に与えることで画像中の人の表情を変化させることができます.また,風景画を出力するように学習させた生成器に「歌川広重」,「フェルメール」,「レンブラント」等のような画家(転じて画風)の条件を与えることで,指定した画家が描いたような風景画を出力させることができます.
Note
上手に使えば色々なことを実現できます.
11.4.2. CGAN の実装¶
CGAN を実装します.ただし,この CGAN では基本的な GAN の学習法ではなくて WGAN-gp の方法を使っています.WGAN-gp が非常に強力な方法だからです.よって,これは元々の CGAN でなくて CWGAN-gp とでも呼ぶべきものです.このプログラムでも MNIST の学習データセットを読み込んで,類似した数字画像を出力する人工知能を構築します.以下のように書きます.
#!/usr/bin/env python3
import tensorflow as tf
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
tf.random.set_seed(0)
np.random.seed(0)
def main():
# ハイパーパラメータの設定
MiniBatchSize = 300
NoiseSize = 100 # GANはランダムなノイズベクトルから何かを生成する方法なので,そのノイズベクトルのサイズを設定する.
MaxEpoch = 300
CriticLearningNumber = 5
GradientPenaltyCoefficient = 10
# データセットの読み込み
(learnX, learnT), (_, _) = tf.keras.datasets.mnist.load_data()
learnX = np.asarray(learnX.reshape([60000, 784]), dtype="float32")
learnX = (learnX - 127.5) / 127.5
# 生成器と識別器の構築
generator = Generator() # 下のクラスを参照.
critic = Critic() # 下のクラスを参照.
# オプティマイザは生成器と識別器で同じで良い.が,ハイパーパラメータを変えたくなるかもしれないからふたつ用意.
optimizerGenerator = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001,beta_1=0,beta_2=0.9)
optimizerCritic = tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001,beta_1=0,beta_2=0.9)
@tf.function()
def runCritic(generator, critic, noiseVector, realInputVector, realConditionVector):
with tf.GradientTape() as criticTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector, realConditionVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector, realConditionVector) # その生成データを識別器に入れる.
criticOutputFromReal = critic(realInputVector, realConditionVector) # 本物データを識別器に入れる.
epsilon = tf.random.uniform(generatedInputVector.shape, minval=0, maxval=1)
intermediateVector = generatedInputVector + epsilon * (realInputVector - generatedInputVector)
# 勾配ペナルティ
with tf.GradientTape() as gradientPenaltyTape:
gradientPenaltyTape.watch(intermediateVector)
criticOutputFromIntermediate = critic(intermediateVector, realConditionVector)
gradientVector = gradientPenaltyTape.gradient(criticOutputFromIntermediate, intermediateVector)
gradientNorm = tf.norm(gradientVector, ord="euclidean", axis=1) # gradientNorm = tf.sqrt(tf.reduce_sum(tf.square(gradientVector), axis=1)) と書いても良い.
gradientPenalty = GradientPenaltyCoefficient * (gradientNorm - 1)**2
# 識別器の成長
criticCost = tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated - criticOutputFromReal + gradientPenalty) # 識別器を成長させるためのコストを計算.WGANの元論文の式そのまま.
gradientCritic = criticTape.gradient(criticCost, critic.trainable_variables) # 識別器のパラメータだけで勾配を計算.つまり生成器のパラメータは行わない.
optimizerCritic.apply_gradients(zip(gradientCritic, critic.trainable_variables))
return criticCost
@tf.function()
def runGenerator(generator, critic, noiseVector, generatedConditionVector):
with tf.GradientTape() as generatorTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector, generatedConditionVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector, generatedConditionVector) # その生成データを識別器に入れる.
# 生成器の成長
generatorCost = -tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated) # 生成器を成長させるためのコストを計算.
gradientGenerator = generatorTape.gradient(generatorCost,generator.trainable_variables) # 生成器のパラメータで勾配を計算.
optimizerGenerator.apply_gradients(zip(gradientGenerator,generator.trainable_variables))
return generatorCost
# ミニバッチセットの生成
learnX = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnX) # このような方法を使うと簡単にミニバッチを実装することが可能.
learnT = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnT)
learnA = tf.data.Dataset.zip((learnX, learnT)).shuffle(60000).batch(MiniBatchSize) # インプットデータもターゲットデータも両方使うため.
miniBatchNumber = len(list(learnA.as_numpy_iterator()))
# 学習ループ
for epoch in range(1,MaxEpoch+1):
criticCost, generatorCost = 0, 0
for learnx, learnt in learnA:
# WGAN-gpでは識別器1回に対して生成器を複数回学習させるのでそのためのループ.
for _ in range(CriticLearningNumber):
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
criticCostPiece = runCritic(generator, critic, noiseVector, learnx, learnt)
criticCost += criticCostPiece / (CriticLearningNumber * miniBatchNumber)
# WGAN-gpでは識別器1回に対して生成器を複数回学習させるのでそのためのループ.
for _ in range(1):
noiseVector = generateNoise(MiniBatchSize, NoiseSize) # ミニバッチサイズで100個の要素からなるノイズベクトルを生成.
generatedConditionVector = generateConditionVector(MiniBatchSize)
generatorCostPiece = runGenerator(generator, critic, noiseVector, generatedConditionVector)
generatorCost += generatorCostPiece / miniBatchNumber
# 疑似的なテスト
if epoch%10 == 0:
print("Epoch {:10d} D-cost {:6.4f} G-cost {:6.4f}".format(epoch,float(criticCost),float(generatorCost)))
validationNoiseVector = generateNoise(1, NoiseSize)
validationConditionVector = generateConditionVector(1)
validationOutput = generator(validationNoiseVector, validationConditionVector)
validationOutput = np.asarray(validationOutput).reshape([1, 28, 28])
plt.imshow(validationOutput[0], cmap = "gray")
plt.text(1, 2.5, int(validationConditionVector[0]), fontsize=20, color="white")
plt.pause(1)
# 入力されたデータを評価するネットワーク
class Critic(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Critic,self).__init__()
self.d1 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d2 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d3 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d4 = tf.keras.layers.Dense(units=1)
self.a = tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.dropout = tf.keras.layers.Dropout(0.5)
self.embed = tf.keras.layers.Embedding(input_dim=10, output_dim=64, mask_zero=False)
self.concatenate = tf.keras.layers.Concatenate()
def call(self,x,c):
y = self.d1(x)
c = self.embed(c)
y = self.concatenate([y, c])
y = self.a(y)
y = self.dropout(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.dropout(y)
y = self.d3(y)
y = self.a(y)
y = self.dropout(y)
y = self.d4(y)
return y
# 入力されたベクトルから別のベクトルを生成するネットワーク
class Generator(tf.keras.Model):
def __init__(self):
super(Generator,self).__init__()
self.d1 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d2 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d3 = tf.keras.layers.Dense(units=128)
self.d4 = tf.keras.layers.Dense(units=784)
self.a = tf.keras.layers.LeakyReLU()
self.b1 = tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.b2 = tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.b3 = tf.keras.layers.BatchNormalization()
self.embed = tf.keras.layers.Embedding(input_dim=10, output_dim=64, mask_zero=False)
self.concatenate = tf.keras.layers.Concatenate()
def call(self,x,c):
y = self.d1(x)
c = self.embed(c)
y = self.concatenate([y, c])
y = self.a(y)
y = self.b1(y)
y = self.d2(y)
y = self.a(y)
y = self.b2(y)
y = self.d3(y)
y = self.a(y)
y = self.b3(y)
y = self.d4(y)
y = tf.keras.activations.tanh(y)
return y
def generateNoise(miniBatchSize, randomNoiseSize):
return np.random.uniform(-1, 1, size=(miniBatchSize,randomNoiseSize)).astype("float32")
def generateConditionVector(miniBatchSize):
return np.random.choice(range(10), size=(miniBatchSize))
if __name__ == "__main__":
main()
実行した結果として生成される画像の中心から左上の辺りに数字が表示されていると思います.これはランダムに発生させた条件です.ランダムに 0 から 9 の範囲内にある整数が選択されます.この整数で指定した条件と同じような手書き数字(のようなもの)を出力してほしいのですが,結果を確認すると意図通りにできていますよね.
CGAN の説明はこれまでのプログラムが理解できている人には不要かもしれません.WGAN-gp の実装変わっている点は 1 点だけです.以下はクリティックのコストを求めるための記述ですが,引数がひとつ増えています.realConditionVector
が増えているのですが,これは条件を指定するためのベクトルです.生成器とクリティックの入力ベクトルとして条件データを入力する必要があるため,これが新たに加わっただけです.その他の計算は WGAN-gp のものと全く同じです.
@tf.function()
def runCritic(generator, critic, noiseVector, realInputVector, realConditionVector):
with tf.GradientTape() as criticTape:
generatedInputVector = generator(noiseVector, realConditionVector) # 生成器によるデータの生成.
criticOutputFromGenerated = critic(generatedInputVector, realConditionVector) # その生成データを識別器に入れる.
criticOutputFromReal = critic(realInputVector, realConditionVector) # 本物データを識別器に入れる.
epsilon = tf.random.uniform(generatedInputVector.shape, minval=0, maxval=1)
intermediateVector = generatedInputVector + epsilon * (realInputVector - generatedInputVector)
# 勾配ペナルティ
with tf.GradientTape() as gradientPenaltyTape:
gradientPenaltyTape.watch(intermediateVector)
criticOutputFromIntermediate = critic(intermediateVector, realConditionVector)
gradientVector = gradientPenaltyTape.gradient(criticOutputFromIntermediate, intermediateVector)
gradientNorm = tf.norm(gradientVector, ord="euclidean", axis=1) # gradientNorm = tf.sqrt(tf.reduce_sum(tf.square(gradientVector), axis=1)) と書いても良い.
gradientPenalty = GradientPenaltyCoefficient * (gradientNorm - 1)**2
# 識別器の成長
criticCost = tf.reduce_mean(criticOutputFromGenerated - criticOutputFromReal + gradientPenalty) # 識別器を成長させるためのコストを計算.WGANの元論文の式そのまま.
gradientCritic = criticTape.gradient(criticCost, critic.trainable_variables) # 識別器のパラメータだけで勾配を計算.つまり生成器のパラメータは行わない.
optimizerCritic.apply_gradients(zip(gradientCritic, critic.trainable_variables))
return criticCost
以下のミニバッチを構築するための記述の learnA
からはじまる行のコメントに注目してください.これまではここに,「今回はインプットデータしか使わないけど後にターゲットデータを使う場合があるため.」と書いていましたが,ここでは,「インプットデータもターゲットデータも両方使うため.」と書きました.CGAN では MNIST の教師データを学習ループ内で使うためです.
# ミニバッチセットの生成
learnX = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnX) # このような方法を使うと簡単にミニバッチを実装することが可能.
learnT = tf.data.Dataset.from_tensor_slices(learnT)
learnA = tf.data.Dataset.zip((learnX, learnT)).shuffle(60000).batch(MiniBatchSize) # インプットデータもターゲットデータも両方使うため.
miniBatchNumber = len(list(learnA.as_numpy_iterator()))
Note
終わりです.